SiCMOSFETモジュール開発のために(3)

SiCMOSFETチップの電流定格は大きくなってきていますが、モジュールの電流定格は、IGBTモジュールに比べ、まだまだ小さな値となっています。IGBTの同等品を作成するには、SiCMOSFETチップの並列接続が必要です。ここでは、SiCMOSFETの並列接続について、紹介します。

  1. パワー半導体の並列接続

MOSFETやIGBTのパワー半導体の並列接続は新しいテーマではありません。

Si MOSFETの並列接続については、1981年にJ.B. Forsytheによって検討されています。

電流分布の不均一性の原因はデバイスパラメータのバラツキ、電力回路のバラツキとゲートドライブ回路のバラツキによるものです。

デパラメータバイスのバラツキとは、IGBTの場合Vce(sat)とVthでMOSFETの場合はRonとVthです。SiCMOSFETの場合はRonとVthになります。

電力回路のバラツキは、あまり検討されず、対称な回路が用いられました。

ドライブ回路のバラツキには、ここでは触れません。

2.スイッチング時の発振メカニズム

図2.1はSiC MOSFETのダブルパルステストの回路を示めします。

UDCはDCリンク電圧、CDCはDCリンク容量、Rg は外部ゲート抵抗、Lは負荷インダクタンス、Dはフリーフォイルダイオード、QはSiC MOSFET です。

回路上に作った訳ではありませんが、赤色で示したような回路の寄生パラメータが発生します。CpはダイオードDの接合容量と負荷インダクタンスLの巻線間容量を並列に接続した等価的な合計の容量を示です。Lgはゲートの配線インダクタンス、LsはSiCMOSFETのソースからゲート回路のソース端子までのインダクタンス、LdはDCリンク容量CDC, FWD(D), SiCMOSFET(Q)のDCリンク回路による等価的な配線インダクタンスです。但しLsを除きます。青い部品は、MOSFETの寄生容量です。CDS, CGS、CGDはそれぞれMOSFETのドレイン・ソース間、ゲート・ソース間、ゲート・ドレイン間の容量をしめします。

2.1 回路の寄生パラメータが無い場合、MOSFETの理想的なスイッチングの振る舞いは図2.2のようになります。

 

 

 

 

スイッチング特性のシミュレーション結果を図2.3に示します。

 

 

 

2.2 回路の寄生パラメータCpがある場合、ドレイン電流はCp(FWDの容量等)の影響を受け、Cpが大きいと、ターンオン時のオーバシュートする電流も大きくなります。

DがPNダイオードであると、ダブルパルステストの最初のオン信号が終了した時に、負荷電流が順方向電流として通電するので、二発目のオン信号の時には、ダイオードDの逆回復電荷もターンオン時のオーバシュートに加わります。

2.3 回路の寄生パラメータLdがある場合、MOSFETのドレイン電圧は、Ldが大きいと、ターンオンの電流が上昇している間に少し減少し、ターンオフの時は、電圧のオーバシュートを発生します。

 

 

 

2.4 回路の寄生パラメータLsがある場合、MOSFETのゲート・ソース間電圧は、電流が流れようとすると、Lsでの電圧降下の影響を受けて見かけ上VGSが低下します。従ってターンオンが遅れるのです。逆にターンオフの時は電流が流れまいとすると、Lsでの逆起電力によりVGSが増加します。従ってターンオフも遅れるのです。

 

2.5 回路の寄生パラメータLgがある場合、MOSFETのゲート・ソース間電圧は、ゲート電流がゲートを充電しようとすると、電圧降下が発生して、CGSの充電を遅らせ、ゲート電流がゲートを放電しようとすると、逆起電力が発生して、CGSの放電を遅らせます。

但しゲート電流は少ないので、あまり波形に影響を与えません。

2.6 回路の寄生パラメータLg, Ls, Ldがある場合、スイッチング波形は、次のようになります。

ターンオンの時の発振は、LdとCpから作られ、ターンオフの時の発振はLdとCDSが原因となります。

 

 

  1. 電流の測定

電流の測定は測定器が大きく、直接ドレイン電流等を測定できないので、二段階方式で測定します。二段階方式とは、左図のように、測定する部位に応じた変成器(SSCT)を作り、その出力をピアソンの2877で測定するものです。

(注意:オフセットが必要)

 

 

 

  1. SiC MOSFETのスイッチング波形

ゲート抵抗を小さくするとSiC MOSFETのスイッチング速度が速くなます。それと同時にゲート電流がSiCMOSFETのゲート・ソース間容量を過充電し、ゲート配線のLgと振動するので、必要以上にRgを下げない事、Lgを小さくする事が必要になります。

 

 

 

シミュレーションでは、Lsを変化させても、(図2.6参照)スイッチング時間が遅れるだけでしたが、実際には、図2.25のようにリンギングが発生します。

 

 

 

 

Ldを可変した場合、シミュレーション結果にもリンギングがありましたが(図2.5参照)、実際にはそれ以上のリンギングがありました。

 

 

 

 

  1. SiC MOSFETの並列接続

5.1 Lsのバラツキ

ディスクリートパッケージのSiC MOSFETを使用し、ソース端子の長さを変えてLsを調正し、スイッチング波形を観測すると、図3.8のように、Lsの少ないチップには多くのターンオン電流が通電するが、素子の特性が似ているので、オン状態の通電電流に、違いは見られません。

5.2 Ldのバラツキ

Ldが大きいと電流のリンギングが激しく(図3.12の青色参照)なります。

 

 

 

 

 

 

また、電圧のオーバシュートも激しく(図3.14参照)なります。

 

 

5.3 4並列の2in1 (w/o SBD)SiCMOSFETモジュールの例

図4.8はモジュールの図形(3次元)です。

 

 

 

 

図4.9はハイサイドとローサイドの両方に通電したものです。但し(b)にはDBC基板の裏面の銅のパターンがありません。裏面の銅パターンの影響で(a)の場合には温度上昇が少ない事が分かります。(裏面の銅パターンの存在により分布容量が加わり等価的にLd,Lsが減少したのです。)

図4.19は補助ソースを利用した4並列MOSFETモジュールのパターン例です。

チップとDC-の間に共通のLssがあり隣り合うチップの間にはそれぞれL12, L23,L34があります。これが回路のバラツキになります。

チップには補助ソースの端子もあります。補助ソースを接続した場合のそれぞれのインダクタンスをLs12,Ls23,Ls34とします。

補助ソースを利用すると、MOSFETを駆動するのに、メイン電流のフィードバックを受けなくなるので、速くターンオン出来るようになります。

チップにVthのバラツキがあれば、それが拡大する形になります。

オン状態はチップのRonに従います。従ってバラツキが少なければ均一な損失となります。

補助ソースの問題点は、メイン電流がメインの浮遊ソースインダクタンス(L12,L23,L34)のみでなく、補助のソースインダクタンス(Ls12,Ls23,Ls34)を通過して、他のチップのメインソースに至り、そこからそのメインの浮遊ソースインダクタンスを通ってメイン電流が流れる可能性がある事です。

  1. まとめ

6.1 電流分布: 電流分布の測定はDBC基板では行えないので、DBC基板と相似形のPCB基板を起こし、チップの代わりにディスクリートを使用して、評価する事になります。

6.2 損失バラツキ:通電損失のバラツキを少なくするには、Ronを揃えます。スイッチング損失を揃えるにはVthを揃えます。回路(DBC基板パターン)による損失を揃えるには回路のインピーダンスを揃えます。

6.3 補助ソース端子:スイッチング動作が早くなり、Vthのバラツキが電流のバラツキとなって顕著に表れます。Vthに差がある場合、通電中のチップのソース端子から、まだ通電していないチップのソース端子にドレイン電流が流れ込む事があります。補助ソース・ボンディングワイヤーの電流定格に注意が必要。

6.4 発振対策:発振を起こさない為には、「Ld,Ls,Lgが小さくなるように、DBC基板のパターン及びモジュール内部の配線、モジュール外部のDCリンクコンデンサまでの配線を短く、分布定数回路の寄生容量Cを利用して浮遊インダクタンスをキャンセルするように配置する事」が必要。

  1. 補足

7.1 補助ソース端子のボンディングワイヤー:ゲート抵抗の一部をソース側に配置すれば、ボンディングワイヤーの通電電流を低減できます。

7.2 ゲート信号の発振抑制

Rg>2*(Lg/CGS)^0.5 のゲート抵抗を挿入すれば、ゲート信号の発振は抑制されます。

Lg=10nH, CGS=2788pFの場合、Rg>3.78Ωとなります。

7.3 Id及びVdsの発振抑制

ゲート・ソース端子に並列にコンデンサを挿入してゲート電位を安定させれば、ゲートの振動は減少します。但しターンオン、ターンオフ動作が遅くなります。

以上

参考文献:

Parallel Connection of Silicon Carbide MOSFETs for Multichip Power Modules

Aalborg Universitet (Denmark) Li, Helong 2015年発行